
世界トップレベルの研究施設・ELSI

東京科学大学大岡山キャンパスには、世界各国から研究者が集結する「地球生命研究所(ELSI)」があります。文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)により設立された、まさに知の最前線であり、研究室内の公用語も英語という国際的な環境です。
現在、ELSIには10か国以上から、物理学、化学、地質学、生物学など多様なバックグラウンドを持つ研究者が在籍。「生命はどのように誕生したのか?」という人類普遍の問いに挑んでいます。
「生命の起源を追う」Shawn先生の探求心

微生物生化学を専門とするShawn McGlynn准教授(以下、Shawn先生)は、カリフォルニア工科大学での研究を経て2016年よりELSIに参画。先生が注目しているのは「生命の起源」と「電子の動き」です。Shawn先生によれば、生命とは「電子を動かしてエネルギーを作るシステム」のこと。太古の地球や深海の熱水噴出孔で起きている電子の流れが、地球で最初の生命を生み出したのではないかという仮説を研究されています。
先生は地球深部探査船『ちきゅう』を活用した研究プロジェクトに参加し、海底のさらに下、数千メートルもの地底深くからサンプルを採取するなど、微生物や微生物の活動を支える酵素の働きを分析することで、数十億年前の生命誕生の瞬間となったかもしれない電子の流れを解き明かそうとしています。
脱炭素社会の実現に向けて、未来のエネルギーを研究
「生命の起源」というと日々の暮らしからは遠いテーマに思われるかもしれません。しかし、その研究は実は私たちが目指す「脱炭素社会」につながる可能性を秘めています。
Shawn先生の研究室では、生命起源を探るために「深海の熱水噴出孔」を再現する装置を開発。実験の過程で、装置の加圧に使用していた「窒素ガス」から、思いがけず「アンモニア」が生成されていることが分かりました。
Shawn先生は、この発見について次のように語ります。
「これは本当に偶然なのですが、装置の圧力を上げるために安価な窒素ガスを使ったところ、アンモニアが次々と生成されていたのです。常温・常圧という穏やかな条件で窒素をアンモニアに変換できる。この方法は、私にとっても世界にとっても重要な発見になるかもしれません」
アンモニアは燃焼しても二酸化炭素を排出しないため、カーボンニュートラルの切り札として注目されるエネルギー源です。


領域を超えて「好奇心」がつなぐ未来
「自宅から研究室はとても近いので、自転車で通勤しているんですよ」と話すShawn先生。世界トップレベルの研究者でありながら、気さくな隣人でもあります。そんな先生が大切にしているのは「好奇心(Curiosity)」です。専門分野の垣根を超え、お互いの研究に興味を持ち、教え合う。「そのような自由でオープンな空気こそが、ELSIが特別な場所である理由です」との先生の言葉に、ELSIの研究拠点としての力強さの源を見た気がしました。
目黒区で世界を変えるかもしれない脱炭素のイノベーションが芽吹いています。この知的なワクワクを皆さんと共有しながら、私たちも日々の暮らしから「脱炭素につながるスマートライフ」に取り組んでみませんか?

東京科学大学 地球生命研究所(ELSI =EARTH-LIFE SCIENCE INSTITUTE)
2012年に東京工業大学(現・東京科学大学)の大岡山キャンパスに設立された「地球と生命の起源」の解明に挑む世界トップレベルの研究拠点。ELSIでは一般向けに講演会やセミナー、イベントなどを随時開催。詳細はHPでご確認ください。
今回の取材は、鈴木大輔さん(東京科学大学・博士課程3年)による通訳と専門的なサポートに支えられ、Shawn先生の情熱に触れることができました。左が鈴木さん、右は筆者。
