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私の一生モノ! ① 「すずろなる硯」

私の「一生もの」は夫の伯母の硯(すずり)でしょうか。伯母は書家でした。

十代で戦争を体験し、戦地にて許婚を亡くし、勤労で復興期を支え、高度成長期を経て親の介護の後に、生涯独りで静かに亡くなった伯母。世の中の雑事から距離を置くためにも、こころの平穏を得るためにも、書道の時間はかけがえのないものだったのでしょう。

何十年も時を経て、私の手元にある硯。日々の暮らしに追い立てられるように過ごしている私にも、悠然と墨をすり、漆黒の溜まりに筆をおろし、広がる墨の香りの中で無心に書をしたためる日が来るでしょうか。

いつの日か縁ある方に硯を受け継いでもらえることを願いながら。

 

行人坂小雪


「すずろ」とは・・・心のおもむくまま・さま・思いがけない・予測していない