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「包む―日本の伝統パッケージ」展を見て

目黒区美術館で「包む―日本の伝統パッケージ」展を見ました。日本のアートディレクター、グラフィックデザイナーの草分けであった岡秀行氏から寄贈された日本に古くから伝わる伝統的なパッケージデザインのコレクションです。

展示会場
展示会場

展示は木、竹、藁、土、紙という素材別に展開されていましたが、自分の記憶にもある、どこか懐かしいものから、全く初見のものまで、多様で充実した内容でした。なにより、日本独自のパッケージという視点がすでに斬新で、1970年代には世界巡回展が行われ、大きな評価を得たことも、なるほどと思わされます。

さて、伝統パッケージというわけですから、自然素材を使った手仕事によるものであるのは当然ですが、展示全体を見て回って浮かんできたイメージは、日本の里山の光景でした。雑木林や竹林があり、水田が広がる景色です。つまり、全ての素材がそうした里山の自然から一時的に借りてきたもので、使い終わればまた自然に返すという「持続可能な」営みの姿というわけです。使い捨てのパッケージが、マイクロプラスチックとなって環境に大きなダメージを与えてしまうような世界とは違う、と案内していただいた目黒区美術館の山田学芸係長も指摘されていました。

 


包む

おひねり
おひねり
熨斗袋
熨斗袋

今回の展示は「包む」という行為のニュアンスが、素材によって少しずつ異なると感じさせるものでした。紙は水引のついた熨斗袋に見られるように精神性が高く、それは最も簡単な「おひねり」にも通じています。現金をむき出しでは渡さないという日本人の心の表現です。また、木や竹や土(焼物)は職人の手わざを生かした工芸品の趣きを見せ、使いまわしも意識してしまいます。


藁(わら)


中でも最も印象深かったのは藁です。藁は稲作に伴って毎年大量に発生する素材ですが、それは決して米作りの廃棄物というわけではありません。昔の人がいかに巧みに藁を利用したか、その多様性には驚くばかりですが、その一端がパッケージです。藁束で包んで両端を結ぶ「つと」とか、藁で編んだむしろ(こも)といった使い方では、あくまで梱包材として実用的に使われています。そして、最後は肥料として土に戻っていく。稲作が農業の中心だった日本に相応しいパッケージだと感じました。もちろん、そこに素朴な美しさがあることが、デザイナー岡秀行を捉えたのでしょう。